スタッフコラム
紙の教科書が教室にもたらす「落ち着き」──デジタル時代の教育を問い直す

先日、読売新聞に掲載されたある記事が強く印象に残った。
一見すると時代に逆行するように見えるが、教育に関わる者として非常に重要な問いかけが含まれていた。
内容は、海外で進む「デジタル教育の見直し」について。
子どもたちの学力低下や心身の不調が明らかになる中で、これまで積極的にデジタル教材を導入してきた北欧諸国が、紙の教科書やノートへの回帰を始めているというのだ。
フィンランドの変化が示すもの
特に教育先進国フィンランドの動きが印象的だった。
同国は1990年代からICT教育を国家プロジェクトとして推進し、2000年のPISA(国際学習到達度調査)では読解力世界一、数学的応用力も世界2位という成果を上げた。
しかし近年、その順位は大きく落ち込み、国内では「教育は急速なデジタル化に耐えられなかった」との反省の声が上がっているらしいのだ。
興味深いのは、単に方針転換したのではなく、現場からの強い声に後押しされているという点だ。
保護者の約7割が紙教材を希望し、教員の8割以上が紙の教科書を使いたいと答えた。
「PCではどこを読めばいいか分からない」「紙のほうが理解しやすい」といった、学習者の率直な声も報告されている。
ある校長先生の言葉がとりわけ心に残った。
「紙の教科書は教室に落ち着きをもたらす」
教室の空気は教材でも変わる
この言葉に、深く頷かざるを得なかった。
授業においては、内容の質と同じくらい「空気感」が大切だということを、私自身もこれまでの指導経験から痛感している。
これまでは「教室の空気を整えるのは指導者の力」だと考えていたが、教材の種類そのものが空気感に影響するという視点は、新鮮でありながら納得感があった。
確かに、タブレットやPCには通知や操作音、ブルーライトなど、多くの無意識の刺激が伴う。
これが知らず知らずのうちに集中力を奪い、学びのリズムを乱しているのかもしれない。
「古い」と言われても、守りたいものがある
私は今、リモート指導や映像配信も手がけているが、教材に関しては今も紙ベースを推奨している。
特に自学自習の時間においては、授業以外の時間はタブレット等の使用は最小限にすべきだと考えている。
こうした意見を述べると、「古い」「アナログだ」と批判されることもある。
だが、“新しい”ことが必ずしも“良い”とは限らない。
私たちが問うべきは、「便利かどうか」ではなく、
「それが子どもたちにとって本当に良い学びをもたらすかどうか」ではないか。
テクノロジーの恩恵を否定するつもりはない。
しかし、それに振り回されず、必要に応じて立ち止まり、見直す勇気が今の教育には求められていると思う。
最後に、親として、教育者として
私は一人の教育者として、そして親としても、
この問題にもっと多くの人が関心を寄せてほしいと願っている。
教室の「空気」は、子どもの心身とよく似ている。
騒がしさやざわつきがあれば、学びはうまくいかない。
静かで落ち着いた空間こそ、子どもたちが安心して学び、成長できる場になると思っている。
紙の教科書がもたらす落ち着きを、もう一度見直してみてもいいのではないだろうか。